ピアノよもやま話 − ピアノ再発見のために(2)


2.弦楽器としてのピアノ

 ピアノは木の芸術品と言われています。多くの木製の部品がその働きに応じて使い分けられています。
ピアノは分類の仕方によっては、鍵盤楽器あるいは弦楽器と見ることも出来ますが、ここでは弦楽器として捉えてみます。

 ヴァイオリンに代表される弦楽器は全て木が主体です。弦だけを叩いても、はじいても、こすってもさほど大きな音はしませんが、
板に響かせると大きくなるのです。弦の振動を板(響鳴板)に伝える役目をしているのを駒と言います。
ピアノの駒は高音から低音にかけて連なった一本の木を響鳴板に貼り付けます。(ヴァイオリンや琴の柱等は響鳴板の上に置いてあるだけ)
同じ弦楽器でもピアノの弦は強い張力なので弦が駒の上で踊らないように1本の弦を2本のピン(クギ)でコジを作り
[駒の上に斜めに打った2本のピンに弦を強い力で沿わせて]しっかり止めるのです。
このピンの材質や太さ、そしてコジの度合いでも音色や音量が変わります(Fig.1)。

 ヴァイオリンの駒もピアノの駒も基本的にはカエデを使います。カエデの木は木目が複雑で、肉質は緻密、
そしてネバリのある割れにくい性質を持っているので、強い力でコジた弦をピンで止めるのに適しています。
他に、ブナ材を使うメーカーもあれば、高音部2オクターブ程はより硬いツゲの木を使うメーカーもあります。
やはりその方が硬質な音になります。ヴァイオリンの駒で高音のE線が乗っている所に象牙をはめ込んであるのを見たことがあります。

 駒は弦の振動を忠実に響鳴板に伝わるように圧力がかかっています。
ピアノの場合は全体で500kg位の圧力がかかっていると言います。響鳴板は約8ミリ位の厚さのスプルースですが、
周囲を幾分薄く加工します。そして圧力に耐えられるように、響棒(リブ、約3センチ角位の棒)を約10本前後、
12センチ間隔位で響鳴板の木目に対してほぼ直角に(駒に対しても直角に)裏側へ貼りつけます。(例外もあります。)

 つまり、これはステレオのスピーカーと同じです。マグネットが受けた信号をコーン紙に響かせる様に、
駒が受けた弦の振動を板に響かせているのです。ただ、ピアノの場合は響鳴板が圧力で下がらないようにリブが必要なのですが、
日本ではこの棒のことを響棒と呼んでいることから、この棒自体も響くかのように誤解されていることがあります(Fig.2, Fig.3)。

 さて、次にその響鳴板をしっかりした木ワクに貼りつけます(Fig.4)。(スピーカーもしっかりした金ワクで留められています。)
その時、周囲全て貼りつけてしまう場合と高音部の一部を浮かせる場合、あるいは低音部の一部を浮かせる場合とか、
メーカーによってやり方は様々です。更に、現在のピアノは鋳鉄のワクをはめます。
それは88鍵230本余りの弦を一本当たり90kgで引っ張ると全体で約20トンにもなる張力に耐えるためです。
モーツァルトの頃に始まった初期のピアノに比べるとその張力は20倍以上になっています。

 もう一言、グランドピアノの形は、何故えぐれているのか、前述の駒は響鳴板の上を高音から低音にかけて弦の長さに伴い、
斜めに走っています。弦の振動は駒を中心に左右に波になって広がります。
広がった振動は木ワクに当たってはね返ってきます。その波が戻りやすい様に、ほぼ駒に平行して響鳴板をカットしてあるのです。
実は反対側もカットがしてあります。(例外もあります。)それを除響といいます。

 竪型のピアノも四角い形をしていますが、右上から左下に駒が走っていて(Fig.5)、
駒に平行して右下の隅と左上の隅がカットされているのです(Fig.6)。その除響の部分は厚い板で止めている場合もあるし、
竪型のピアノでは穴があいたままの場合もあります。又、裏側から板を貼りつけて段差になっている場合もあります。
それを二重響板などといって素人を惑わす様なことを言う人もいますが、二重響板というようなものはピアノにはありません。

 この様にしてしっかりとしたワクで出来た響鳴板の外側を約2〜3cmの板で覆い、それに着色するか、化粧板を貼りつけて塗装を施します。
足や蓋も同様にしてできあがります。化粧板はおしゃれな調度品としての意味があるのであって、音や耐久性を求めるためのものではありません。この本体はヴァイオリン本体と同様、200〜300年も耐久性のあるものです。(ただ、それだけの歴史を持っていないので証明はできません)
材質や使用場所の条件、手入れの仕方によって寿命は異なるでしょうが、本来なら半永久的なものです。
(但し、弦は10年〜30年に一度は取り替えた方が良いでしょう)

 次に、弦を振動させる道具が要ります。ヴァイオリンの弓に相当するのが、ピアノの場合、
鍵盤とその上に乗っている、ハンマーのついたアクションです。
ピアノは本体とアクションがある一定の関係を持って合体(セット)されているのです。
従って、ヴァイオリンのように、あの弓、この弓と好きな弓に取り替えることは出来ません。
そして弦を叩くハンマー(木の芯に硬いフェルトを巻きつけたもの)が弓でいう毛(馬のしっぽ)の部分に当たります。
初期の頃のピアノは、フェルト部分に皮を使っていました。(私の工房にあったスクェアピアノも中音から上が、フェルトの上に皮が貼ってあります。)この部分は直接弦に触れるので、その材質や加工技術、又調性の技術によって音色に大変影響を与えます。
そのアクション部分は使えば消耗します。特にハンマーは使い方にもよりますが、一番よく消耗する部分です。
常に最良の状態を保つには10年が限界でしょう。ヴァイオリンの弓の毛はよく奏く人は4ヶ月ごとに張り替えるそうです。

 ピアノのアクションは鍵盤を一つの梃子として、更に3段階の梃子が組み合わさっています。
そして、それぞれの支点、動点はフェルトや皮で被われています。それが常に摩擦され消耗します。
ある程度までは幾つかの調節ネジで調整出来ますが、限界はあるのです。その時は、その都度新しいものに取替え、再生すればよいのです。
但し、ハンマーは88個セットで出来ているので、擦り減ったところだけを取り替えるという訳にはいきません。

 なお、断線の場合も、1、2本位ならよいとしても、10本或いはそれ以上切れるようであれば、
全体のバランスもくずれるので、まとめて全体を張り替える方がよいのです。(この項、続く)

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