よもやま話15 調律の仕方 その1

12月末から1月に掛けて乾燥が続きA4=430、A5=428サイクルまで下がってしまいました。
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16日より加湿器を稼動させ1日で約10g蒸発、雨の日は止めたりしましたが、
現在A4もA5も
440サイクルと11月に調律して頂いた状態にほぼ回復しています。
A4から上のバランスが若干気になりますが、実用上の問題は有りません。
もう少し早く処置をすれば良かったと思いましたが、天気予報と湿度計に注意をしながら
除湿と加湿を切り替える事で、安定させる事が出来ると解ってきました」

と言うお手紙をお客さんから戴き、感心いたしました。

過去に温度による音程の変化を示した例は有りますが、季節の変化には抗しきれず、
NHKホールのオルガン等は春と秋の季節が比較的平均しているときを選んで年
2回調律を行なうと聞いた事が有ります。

私も長年、学校の音楽科の定期調律を年2回行なってきましたが、普通は夏休みと冬休みにしていましたが、
夏には引き上げて、冬には下げての繰り返しに返ってピアノを傷める事になると思ったので
5月と11月にするようにしました。
(因みに、平均温度が10度変ると4サイクル変わるというデーターが有ります)

確かに温度の変化による影響は判り易いのですが、湿度の変化は日に日に細かく変動するので、
湿度の変化と音程の変化の相関関係を発表した方はいません。

昔、ベヒシュタインを買って頂いたお客さんが「低気圧の近づいて来るのが気象庁よりも先に判る」
と言っておられたのを思い出します

只、折角調律をしたのに、直ぐに狂ってやり直した事が何度か有ります。
手抜きをした訳ではないのに、何故こんなに狂ったのだろう、やはり俺が下手だからかなあ・・・
今から考えてみれば、除湿機の位置を変えたり、或いは故障して止まってしまったような場合、
原因が判れば「これだ!!」と指摘できるのですが、普通お客さんは黙っています。
「そんな事言われても私ら素人にはわからへん」

音楽教室など、生徒が使うときだけ空調をつけて、普段は切ったままの場合は
ピアノにとっては非常に過酷を強いられているのです。

生徒が帰った後など、数時間後にピアノがピシッとかパチッと音を立てているのですよ。
何故って、
8割以上が木で出来ているからなのです。木は湿気を吸うと膨らみます。
その力は半端では有りません。
20トンのものを引っ張るのです。

調律とは、一本100キロ前後で引っ張られている弦が伸びて下がった音を、改めて張力を掛けて引き上げる作業です。
1台のピアノの弦の数は230本前後)

ピアノは弾かずに長年放って置いても自然に弦は伸びます。ショックを与えれば更に伸びます。
従って音が下がるのが普通ですが、逆に上がる事があります。

それは、調律の後、急に温度が下がった場合以外、大方は湿気のせいなのです。
日本は全般に湿度が高いとされています。しかし低い時もあるのです。

現代のピアノは、フォルテピアノやギター、ヴァイオリンに比べ随分丈夫に創られて居ります。
従って許容範囲を言いますと湿度35lから75l位まで耐えることが出来ます。
問題は、湿度上下
10l以内で安定している事が大事なのです。湿度の上下の差が大きいと困るのです。

最近は空調設備が発達してきて部屋もサッシ等で密閉度が上がっています。
標準的な目安として60l前後が理想ですが、自然の力にはかないません。
それでも、先ほどのお客さん以外にも46時中エアコンで調節されている方が

居られます。私の工房も展示場は年中エアコンをつけております。

此処で、大事な事は過乾燥より湿気の多い方がまだピアノの為には良いのです。
勿論限度は有ります。柱がカビるようではいけませんが。
過乾燥は、響板が割れることが有ります。ヨーロッパ(イギリスを除く)から来る古いピアノは5割以上、響板が割れています。
(正しく修理をすれば全く問題は有りませんが、高度な技術を伴います)
竪型ピアノは裏側(響板)に直射日光が当るのは絶対避けなければいけません。
最近の床暖房も決してピアノには良く有りません。
湿気が多いとどうなるか。先程述べた様に音が上がる以外、鉄部の錆び、更にアクションの動きが悪くなり、
色々な形で不具合が生じます。

もう一つ大事な事は、空調の風が直接ピアノに当ってはいけません。噴き出し口を基点にして部屋の中で対流を起こしますので、
扇風機や天井扇などで部屋全体を平均化することが理想です。

何れにせよ自然を相手の話ですから、完全に抗し切れるものでは有りません。
従って湿度、温度の変化から起きる音の狂いは人によって気にする度合いは違いますが、
少しの狂いも我慢できない方達の為に調律の仕方をお教えします。


ピアノ以外の楽器は全て演奏者自信が調律も調整も行ないます
最近はピアノの調律も自分でされる方が増えてきました。
バッハなどは、独自の調律をして、「お前より良い音を出す」と、ジルバーマン(当時のオルガンやフォルテピアノ製作者)
に言ったとか。

チェンバロとかクラヴィコードなど、方々持ち歩いて演奏する楽器は、常に保管されている場所と湿度の条件が異なるので、
短時間でも狂います。
ピアノも同じです。

貸し出したりする場合、移動時の振動より、新しい環境の変化の方が狂いは大きいのです。
まして雨の中を移動させると最悪です。
チェンバロ等、演奏の合間に調律の部分修正をする光景を見かけます。
ピアノは、それらに比べ、かなり丈夫に創られているので、余程下手な調律をするか、
ピアノが老化している以外は演奏途中で調律をする事は有りません。

調律師が来るからといって、窓を閉めてヒーターやクーラーをかけられると、常の条件が変るので、
正確にやればやるほど後から狂ってくるのです。
ましてその風が直接ピアノに当るとどうにもなりません。
私は、そのような時は寒くても暑くてもエアコンは止めてもらいます。
因みに、昔ヴァイオリンを弾いている友達から聞いた話で、「良い音のする時は晴れた日が何日か続いた後、サーッと一雨降った時で、その逆は最悪だ」と。
兎に角可聴範囲内(25Hz辺りから4000Hz辺り)に於ける人間の可聴能力は鋭く非常にデリケートに反応するように出来ております。つまり、皆さんご自身の耳を信じることです。
よく、「私は音痴だから・・・」と仰る方が居られますが、生まれつきの音痴と言う方は滅多におられません。
調律師が特別な耳を持っているのでは有りません。音の聞き方と調節の仕方を習って来ただけなのです。
又、今はチューナーといってマイクで音を聞き取って目でわかるように示してくれる電子器具が、
安く手に入れることが出来るようになりました。
其れに従って、ピンを動かせば誰でもその日から調律が出来るのです。

そこで、先ず調律の基本的な事を言います。
現在、音楽に使われている音程の種類は12個です。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、の7個とドレミの間に2個、ファソラシの間に3個の半音があり、あわせて12個と言うわけです。

誰が考えたのかは知りませんが、上手く出来ております。因みに日本には、陰旋法、陽旋法、インドやパキスタン辺りは
又違った旋法で難しい話は、音響学の先生に任せておいて、今回は現在使われている平均率のお話です。

平均率というのは、元来1オクターブを12の音に分けられないのですが、それを無理やり、平均に分けると言う作業なのです。

解り易い例として一つだけ挙げますと黒鍵です。つまりピアノの鍵盤を見ると分る様にドの♯とレの♭は同じです。
これを異名同音といいますが、純正調と比べると違うのです。
ドの♯の方がレの♭より少し音が高いのです。半音の23%の事ですから、どうでも良い話です。頭の隅にそういうものなのだと言う認識しているだけで良いのです。
もう一つ基本的な事として、振動数の割合を覚えて置くと便利な事が有ります
先ず同音は1:1、オクターブは1:2、5度(低いドから上のソ)が2:3
4度は3:4の振動数でなりたっています。それは何を意味しているかと言えば、倍音の一致している所と言う事です。
そこで、1秒間に440回振動する弦と441回振動する弦を同時に鳴らすと、
一秒間に一回振動がずれて、唸りとして聞こえるのです。わんわんわん・・と
その唸りを聞いて合わせる作業が調律なのです。
(二つの音を同時に鳴らした時の一秒間のうなりの数が振動数の差というわけです)
5度の一致する倍音は下の音の3倍音と上の音の2倍音が同じ、つまり振動数が同じだから、その二つの音の間で唸りが無ければ、完全5度と言う訳です。
しかし、ピアノに限らず弦の振動が駒を通して響板に響かせる工程には、様々な条件が伴います。
つまり、電子音のような単純なサインカーブではないのです。
其処には色んな種類の倍音が混ざっていて、実際どの唸りを聞けばいいのか初心者には判りません。
どのピアノも88230本前後の弦で、電子音(時報)のような正弦波で振動を繰り返している弦は一本もありません。ではどうすれば良いか・・・

そこで、先程紹介した器具が登場するわけです。
私も使っているKORGのDT-12というポケットサイズのチューナーで、最近は安くなり1万円以下で手に入れることが出来ます。
3電池2個で動く大変実用的な物です。(低音1オクターブ高音1オクターブ半位は別に、もう少し性能の良いマイクを使えばかなり反応してくれます)

チューニングハンマー一本、ロングウェッジ1本、フェルトウェッジ2本、
UP用のウェッジ一本、チューナー、占めて2万円余りで買えます。
弦が切れたときなど、新しく張ってもらっても、ある程度落ち着くまではよく狂いますので、そうしたときにも便利です。

電子チューナーの出だしの頃は、12の音をレバーで切り替えていました。
私が或る日、良く響く吹き抜けの二階で調律をしていた所、音が変る度にカチカチと下から音がするのです。
「ハハ〜ン、チューナーで監視しているな?」と気付いたので、あちらこちら3度5度6度12度と、音を跳ばしたり
挙句は不協和音や下手な分散和音等を引いてかく乱させると何処かへ行ってしまった事があります。

現在は始めに調律方法さえ指定してやれば自動的に音もせず反応してくれます。

凡その所は高音側、低音側にそれぞれ三角の明かりが点くようになっていて両方に点けば良いのですが、
更に正しくは針が指し示してくれます。

電気が左右点いたり消えたり針がうろうろしているのは、ややこしい倍音に反応しているからです。電子音ならキチット止まります。
目盛りは10%ずつ付いています。どちらかに一杯まで針が触れた時は50%つまり、半音の半分狂っていると言う事です。
説明書が付いていますから読めばわかります。
因みにチューナーに向かって声を出してみると、常々いかにいい加減な音程で歌っているかがわかりますよ。
ビブラートをかけようものなら、チューナーはパニくりますよ。