ERARD
エラール
France/Paris
1885年製造
モデル1

エラール、本腰を入れて修復開始

太いチューニンピンが入っており、

更に弦番号が消されて駒割りが分からない状態でした。

張ってあった弦を測りましたが、割り振りがあり得ないサイズになっていました。

補強のフレームとヒッチングプレート取り外し&フランス人と知恵比べ

このピアノが出来てから一度も外されたことがない為と思われますが、
あらゆる部分が固着してネジが非常に固くなっていました。

取付ネジは石膏で隠されていたため、固定されているであろうの場所を特定しながら見つけ出します。
また、ネジも特殊工具が無いと取れない形状のものが入っていました。

熱して取り外すことは出来ましたが、鉄ネジ、木ネジ共、穴奥深くにかなりの錆が出ていました。


管理の状況があまり良くなかった事が想像されます。

チューニングピンは相当太いものが入っていましたので、
一度手を入れたときには既に状況はあまり良くなかったかもしれません。

しかし、以前の修理は素人レベルであることが、分解を進めるに従って分かりはじめました。
かなりの難修復になりそうです。

オリジナルを出来るだけ残して直す為に・・・


どうしてもピン板は修理が必要なので、そのためには取り外さなければいけない部分をどうやって残しつつ分解するか・・・

当然マニュアルなど有るわけもなく、隙間から見えるわずかなヒントを基に分解の手順を考察します。
結果、貴重なオリジナルのローズウッドを残して分解することができました。

ここまでやっておけば、思い切った修理も出来るので、正確で仕上がりも良くなります。

特徴的な響棒の配置と支柱構造の剥離部分修復

弦のテンションを支える、支柱構造の剥離部分の再接着は絶対に欠かすことのできない修復の重要ポイントです。
複雑な木組みで弦の応力を分散させていますが、経妊劣化により膠(にかわ)切れという剥離が起きます。

ゆすったり、叩いて接合部分に動きがないか確認して問題個所はクランプで締め、接着します。

専門的な話になりますが、響棒の配置が現代のピアノとは少し趣が違い、
チェンバロにみられる様なバーが一本真ん中に駒と並ぶように配置されていました。

日本では響棒と訳されていますが、英語では『リブ』すなわち肋骨の役目をしており、
上からの弦のテンションに耐えられるように取り付けられている補強材です。

このリブを寸断するような形で交錯しているのは初めて見ました。

リブ(響棒)は響板の木目に対して直角に取り付けるのが基本ですが、
各メーカーによって色々な角度での取付方法が採用されています。

困った修復・・・
ピン板に問題ありの続編

写真ではひっくり返っている状態なので、よくわからないと思いますが、何がいけないのか。

古い時代のピアノは、弦を巻き付けているチューニングピンの長さが細く、且つ現代の規格より短いものを使用しています。
この写真はピン底の部分が膨れていたので、点検のために積層の一部をはがしたところです。

やはり貫通していない穴なのに、長いピンを入れたことにより底着きしたため、ピン底の無垢板を叩き割ってしまっています。
修理された方も、積層部分が剥離したのを仕上がったあとで発見したのでしょう、隙間から接着剤を入れた跡がありました。

どうしても長いピンを使用しなければいけない場合は貫通させないまでも少し深く掘るという作業が絶対必要です。
ちょっとした注意、考察でこういったトラブルは未然に防げるはずなのに・・・

続・ピン板修復

棚板との隙間が18センチしかない為、その間にトリマー(切削工具)が入るように工具を加工してからの作業。
刃先を見ながら作業が出来ないので、慎重に3〜4ミリずつ掘り下げます。

一部は14ミリくらいで止めておかなければ強度に影響するので深く割れてしまっているところを残して一度埋め木を施し、
完全に接着したところで深く割れてしまっているところを19ミリまで掘り下げ、埋め木の準備完了。

オリジナルはブナの木を使っていますが、
日本では固い良質なブナがほぼ手に入らないのでカエデで代用します。

クランプで締め込み、2日は放置します。その後、ピン穴加工の予定です。


理由は分からないが・・・

134年もの歳月を経ていると、色々な歴史を背負っていると思いますが、
ブラジリアンローズウッドの上に黒の塗装がしてあります。

躊躇なく剥がしてローズの生地仕上げにしますが、何があって黒塗りにされたのでしょうか?

ブナ材の製材・はぎ合わせ〜ビスケットジョイント〜

厚みのあるブナ材を懇意にしてもらっている岸和田の材木商へ仕入れに行って来ました。

ここの木材商店は、北海道で仕入れたものを自社で製材の後、
ヨーロッパとは違う人工乾燥を施しているため、色が白く割れもありません。
加工、保存管理が行き届いている証拠です。

必要な厚み、長さに製材してはぎ合わせまでの作業は捻じれが出る前に一気に行います。

はぎ合わせはビスケットジョイントという方法を取り、接着剤はタイトボンドVを使用します。

ピン板修復完了

狭い場所での作業は中々つらいですが、冶具(ジグ)を利用しながら安全に工程を進めることが出来ました。

ピアノの修復は、その一つ一つが一様ではなく、
その場合に合った冶具を作り、作業を進めなければなりません。
冶具作りにもかなりの時間を費やします。

前框、ピン板手前部分の復旧

ピン板が自重で下がらないように分厚い鉄板が、手前に仕込まれています。
先ずこれを基準とし、前框と奥板の位置を決定します。

ベースとなる躯体の形を粗取りし、

オリジナルの板を張り付ける前に厚みや切り欠かなければいけない部分を先に仕上げておきます。

悩みに悩んだ数週間

オリジナルのローズウッドを生かす!とは明言したのもの・・・
曲がったり捻じれた材をターゲットの高さへ持って行くのにどうするか。

基準にしようと思っていたところが意外に使えなかったり、
現物合わせしたであろう、ペーパー掛けしたところなどが下がっていたりとかなり難儀しましたが、一応見通しは立ちました。

前框の仕上げ

前框の仕上げにかかります。

分割した部分を一体化させるために、ローズウッドをはめ込みます。

木目方向は横になってしまいますが、着色せずとも、かなり濃い色になるので見た感じは分からないと思います。

前框作業完了

アグラフ取り付け、響板塗装 他

浸水被害に遭った脚の修復

このピアノは関西国際空港に到着した2018年9月の台風による高波被害を受け、
脚とペダルの一部が浸かってしまいました。
その被害により、全損とはならずに済みましたが、化粧板がはがれてしまったので、
新しいものを張り直さなければなりません。

飾りの段差部分がある円錐状の脚に隙間なくピタッと決めるにはどうするか。

円錐を展開した時の底辺が円弧を描くように、
突板も張り付ける太さに合わせて曲線で切り出さなければいけません。

かすかな記憶で、高校の時にやったであろう、
三角比を使うイメージはあるものの、
数時間スケッチを描いて色々調べていくうちに答えが見いだせました。

計算してみると、長いコンパスが必要になったので、工房にある物で自作しました。

0.6ミリの突板(つきいた)ならば十分切り取ることが出来たので、板に張り付けてみました。

幅広の突板がサントスローズしかないので、悪くはないですが・・・

1周した最後の突合せの部分は木目も色目も合わないのでイマ一つだったので、
ブラジリアンローズを2枚使うことにしました。

アグラフの取り付け、鉄骨の取り付け、弦枕のフェルト張り付け、調弦に取り掛かる

裸線の弦はポレロのタイプ0と1、一部レスローを使用。
巻き線はHeller製 銅線と真鍮線の2種類、芯線もポレロをチョイスしました。

調弦をしながら音を確認。ナチュラルで延びのある、とても良い音がしています。

エラールさんと知恵比べ

グランドピアノの小屋根には、開けられない様にするための鍵が、鍵棒という物に取り付けてあります。

一般的なピアノはネジ止めされているのですが、
特にフランスのピアノは表にネジが見えているということを極力嫌う為か、
金具を仕込んで固定するという方法が採用されています。

このピアノもご多分に漏れず、同じ方法だと思い横へスライドさせて外すと思いきや、
右に寄せても左に寄せても外れず・・・
いったいどうなっているのか?? と頭を悩ませました。

色々試行錯誤をしながら、色々試しているうちに、膠(にかわ)付けされているかも・・・
少し浮いたところから徐々に外してようやく取れました。

見たことのない思いもよらぬ発想です。
鍵棒の中にホゾのレールが仕込まれており、そのレールのみが小屋根に接着されて、
鍵棒は左右に位置を変えることが出来る仕様になっていました。

なんという発想でしょうか!初めて見ました・・・
毎度新しいことだらけで、なかなか一筋縄ではいきません・・・

「もう、外し方分からんのやったら触らんといて!」ってエラールさんに言われているみたいです。

浸水被害に遭ったペダルと脚、修復完了

ピアノアクションのジャック製作

ピアノアクションのジャックが何かのはずみで折れたのでしょう、
金具をうまく利用して急場をしのいだ跡が見られました。

アイディアとしては良いのですが、このままにしておくのはダメなので、ジャックの一部分だけを作り直します。

力のかかる方向に対して割れないように木目を考慮して接ぎ合わせ、おおよその厚みにスライスしてフライスで削ります。

角度が付いているので、専用の切削冶具(せっさくじぐ)も作ります。

幅方向にカットし、長さを決めて成型。

ヒール部分に革を張り、折れた部分を元の場所に接着。

補強のために、2.5oでダボ穴をあけ、ツゲをその太さに加工したものを挿入、接着。

ウィッペンに取り付けて完成。

折れたのは数本だけなので、何とかワンオフでの製作は可能でした。

ダンパーフェルトの取り付け方、考察

このピアノのダンパーは弦の下から押さえて止音するようになっています。
また、低音弦からすべてフラットなフェルトが使われているので、
素早い止め方ではなく、ふわっとした余韻が残ります。

現代の傾向からすると、この余韻はあまり受け入れられないことがあるのですが、
逆にそれがこのピアノの特徴であり、そこに音楽性を見出していると思います。

オリジナルのダンパーフェルトが接着されている所を観察すると、
ウッドのへこみに1枚のフェルトを分割するようにしっかり接着されています。
さて、どうやって糊付けしたものか・・・

乾くまで手で押さえているわけにもいかず・・・
きちんと一定に押さえるには、やはりちゃんとした冶具は作らなければいけないし、
接着剤は何を使うか、粘度はどうするか・・・

いろいろ実験してどうやらいけそうなので、フェルトの貼り込みを開始します。

ダンパーフェルトを張り付けたものの・・・

低音部は良い感じになったけど、高音部はちょっと押え過ぎたか・・・

音は止まるけど、チューリップみたいです。
う〜ん  やり直しかな。。

エラールアクション組付け完了

整調に取り掛かります。
ダンパーに関しては、まだお預け状態です。