ピアノよもやま話

For rediscovering the piano

ピアノ再発見のために

Vol.16

調律の仕方 その2

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さて、始めましょうか。

先ず、ロングミュートを取り出し、中央のC(ド)を中心に一オクターブ上の音から、

3本ずつ並んでいる弦の間に差し込んで各鍵盤の音が一本ずつ鳴るようにします、

ある程度幅の或るマイナスドライバー様の物で突き刺して行きます。

低音はF(ファ)以下出来れば中音の終わりまでカバーできれば良いのです

次に中央のCより上の基音A(ラ)の真ん中のチューニングピンにハンマーを差込み、

左手で鍵盤を叩きながら右手で調節するのです。

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チューニングピンはメーカーの企画は日本ではピン板に6.3ミリのドリルで穴を開け6.9ミリのピンを叩き込みます。

従って専用ハンマーを使わないと固くて動きません。

(昔このチューニングピンをペンチで動かそうとしたオバサンが居て、ピンが傷だらけになっているのを見たことが有りました。)

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湿度の高い地方のピアノは、更に固い場合が有ります。

しかし、どんなに固くても油などを挿してはいけません。ピアノはその段階でアウトになります。

(調律師で錆び止めも含めてCRCをかけていた例が有りましたが、フレームにまで沁み込んだ油は取れませんでした)

これを修理するのも高度な技術を必要とします。

余談になりましたが、大事なことです。

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そこで、チューニングハンマーの使い方ですが、肘を何処かに固定して、親指添えるくらいにして4本の指で握るように、

手首から先でピンをなるべくこじない様に動かしてください。

柄の方向をUPの場合は出来るだけ真上か、少し左側に、グランドの場合は奥へ、そして少し右側に向け、

ピンの奥までしっかり差し込むことです。

椅子に座っていては出来ませんよ。

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ピンは少し捻じれて回るので離すと元に戻ろうとします。それを見越して動かさなければいけません。

つまり、音を上げるときは合った所から少し高く持っていって少し戻して合わせるのがコツです。

下げる時はその逆ですが、上げて下ろすという仕草を身に付けた方が安定します。(直ぐ身に付きます)

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左手の鍵盤は、できるだけ同じ強さ(MF位)で叩きます。

少し高いかなァーと言う時には強く叩く事が有りますが、それだけで1セント位下がります。

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先ず中央のドを目安に6度上の音がラ(A)を440ヘルツに合わせます。

世界の基準は440ですが、前のレポートにも示した通り、地方によって国によって様々です。

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新しいうちは半音くらい上げても切れませんが、古くなると切れることがあるので、(特に巻き線)乱暴な操作は禁物です。

特に長く放置しているピアノは一度思い切って下げて(柄を5分位左へ)から合わせます。(親指で押せばいいのです)

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先ずAが合えばオクターブ下のAを合わせます。つまり220ヘルツです。

そのオクターブがキッチリ合っているかを確認する為に次に下のAから4度上のDの音を合わせます。

唸りがなくなるとその上の5度の唸りも無くなります。

つまりオクターブは完全に合っている事が証明されたのです。

是は純正調です。平均率は其処から2セント(パーセントのパーを取った言い方です)高くします。

1秒間に一つくらいの唸りが丁度いいのです。

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チューナーを見て下さい。

電気が両方に付いているでしょう。針は真ん中に有りますか?うろうろしていませんか。

もしも針が落ち着かない場合は別の倍音の影響です、気にせず次に進みましょう。(気にしだしたら一日掛かっても合いませんよ)

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次は今合わせたDの下5度のGを合わせます。

まず少し下げて少しずつ上げて行きます。唸りが無くなった所が純正5度です。其処からも少し上げて、

唸りが秒間6つ位の所まで上げて離すと3つ位の数になります少し親指で下げ方向に柄を押すと唸りが一つになります。

都度チューナーで確認すればいいでしょう。

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次は4度上のC。つまり鍵盤の真ん中のドの音です。ピンを動かす要領は同じです。

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次は5度下のF、次は4度上のB♭、その次は更に4度上のE♭、次は5度下のA♭、4度上のD♭、5度下のG♭、

4度上のBそして4度上のEまで来ると5度下が220ヘルツのAの音で12音全ての音階が出来上がったのです。

後はそれを基準に4度、5度を確認しながらオクターブで両方へ伸ばしていけば良いのです。

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そこで、一つ問題があります。理論上オクターブの振動数の差は倍です。

つまり、440の倍は880そのオクターブ上は1760そのオクターブ上と言えば最高音の85鍵目のAの音が3520振動です。

反対の低い方は440のオクターブ下が220更にいオクターブ下が110、その下が55そして最低音のAの音が27.5と言うわけですが、

それでは人間には高音が低く聞こえ低音は高く聞こえるのです。しかもそれは人によって、ピアノによって微妙に差が有るのです。

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私の経験では、ギターとかヴァイオリンと言ったメロディー楽器を弾いている人は、高音をやたらと上げます。

一般の調律師でもやたらに上げる人が居ますが、一度癖になると中々取れません。

低音も同じことが言えます。

どの位かといいますと、私が習っていた40年位前は最高音で+35セント位でしたが、今は50セントを上回っています。

低音も最低-27セント位です(低音はさほど問題になりませんが)

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この安いチューナーは高音側ダンパーの付いている辺りまでは反応してくれますが、更に高い雑音の多い音には反応しません。

又鳴らなければ反応しないので、メゾピアノ位で細かくコンコンコンコンと鳴らせばいいのです。

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そこで、私はC52鍵目辺りから上は5度を純正に近く合わせる様にしています。

その分4度が少し汚くなりますが、4度と言うのはもともと余り綺麗な和音ではないのでそれで良いのです。

但し純正より広く取ってはいけません。和音が崩れるからです。

古典調律に拘っている人たちでも、結局はピタゴラス調律だと聞きました。

つまり、純正5度というわけです。但し純正5度よりも絶対に広く取ってはいけません

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肝心は平均している事が大事なのです。4度であれ、長3度或いは10度(1オクターブ+長3度)

更にオクターブ離れた音から長3度で唸りの数を確認した時、高音へ行くに従い少しずつ唸りが増えていきますが、

隣同士で急に増えたり少なくなったりというバラつきが無い様に気をつけます。

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より精密な10度、或いはオクターブ10度を使うと言う事は聞きやすいと言う事もありますが中央でこしらえた音をあくまで基準にして、左右広げてゆきます。

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又、もう一つの心得として、特に高音はずらして叩いてはいけません。オクターブは同時に鳴らすことです。

ずらすとどうしても高くなりすぎます。

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最後に、ムキにならないことです。カッカして血圧が上がると高音は余計に聞こえなくなります。

お酒でも飲んで気分をリラックスする位がいいのです。

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パリ左岸のピアノ工房ほど飲んではいけませんよ。せいぜいウイスキーボンボン位にすればいいでしょう。

そういえば俺の友達でウイスキーボンボンで酔ったのが居たっけ・・・

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鍵盤の叩く強さはメゾピアノ以下で良いでしょう。

少し高い所から少しずつ下げて、音が透明になる瞬間が有ります。そこで止めればいいのです。

低音も巻き線に入ると複雑な音がします。

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問題は高次倍音です。場合によっては原音を無視して耳障りな音をなくすようにすることが有ります。

どうしても綺麗にならない時は諦めるか、新しく巻きなおしてもらうかのどちらかですが、

弦の寸法や巻き方に問題がある場合が主で、ネジって張るからだとか言うのは、

ピアノを造ったことのない人だから、聞かなくて宜しい。

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実際複雑な音のするピアノを調律した時のほうが、仕上がった時全体の音が立体的で音楽的に聞こえることが有ります。

調律の一番問題は其処にあるのです。

ヤマハの調律学校で-64点と言う成績の男がいます。

88有る鍵盤が100分の1狂っていても-88ですよ。まして230本余りの弦を合わせて半音の100分の1の狂いもなく

合わせられるものだろうか。それにはチューナーの癖まで読む能力がなければ出来ない事なのです。

しかしそれが音楽的か、芸術的かと言えば別なのです。

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私はプロの調律師として自信を持てる迄には33年かかりました。

33年とは、息子に調律を教え始めてからの事なのです。

それまでは、曖昧な所をそのまま引きずっていましたが、曖昧を教えるほど難しい物は有りません。

しかし、未だに発見は有ります。

例えば、ピアノによって高音の取り方が異なるのは何故か。

スタインウェイはエラールに比べ、どうしても高くなってしまうのです。エラールの高音は非常に上品な音なのです。

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エラールでリチャード・クレーダーマン等弾くと美しい上品な大人の音楽ですがスタインウェイで弾くと

派手なオキャン娘に聞こえるのが可笑しい。

バッハのフランス組曲やクープランの曲が美しい装飾音でちりばめられているのに改めて納得させられます。

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音のとりにくい時は一本ずつ単独にオクターブで合わせるのも一つの方法です。

そして3本がピシャッと合えば、それがいいのです。だって、自分にはそうしか聞こえないのですから・・・

昔は調律のアウトラインを掴むのに1年間かけて300台叩くというのが目安でしたが今はそんなに悠長な時代では有りません。

何しろ安く、安くと言う事で、1台3千円とか5千円で請け負っている人が居るようです。随分以前から生協でも請け負っています。

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昔チューナー調律師として働いた事のある女性の方達や、フリーターの小遣い稼ぎの対象になり、

調律を生業とする時代では無くなって来ました。外国でも同じ現象を早くから聞いていましたが、遂に日本にもと言う感じです。

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本当のプロと言うのは其処からが調律ですが、違いの判る人は殆んど居ません。

だって、気候の変動で直ぐに狂ってしまうからです。

実は我が家のピアノも3ヶ月前に調律をしましたが、かなり酷い状態になっております。

家内は花が好きで良い天気の時は窓を開け放ち、水遣りに余念が有りません。

ピアノに直射日光が当たるときは、さすがカーテンを閉めますが、風で揺らいでも知らぬ顔・・・

やはり電子ピアノが良いのかなァ。

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すると誰かが「電子楽器は湿気にものすごく弱いでぇ」困ったものです。

先日購入したピアノ3百年の歴史というDVD最後に、ヤマハが開発した電子ピアノを褒めて、

300年前のチェンバロからピアノに変ったのと同じ現象が今起きようとしている、と結論付けていました。   ヤレヤレ